核兵器禁止条約発効に際して声明を出しました。

日本政府は一刻も早く核兵器禁止条約を批准せよ 

~核兵器禁止条約発効に寄せて~

2021年1月22日に核兵器禁止条約が発効します。

これまで、包括的に禁止する条約が存在しなかった最大級の非人道兵器である核兵器の禁止は人類の悲願であり、人類滅亡の危機に直結する兵器から世界を守る重要な一歩です。

1997年に対人地雷全面禁止条約の成立に、また2008年にクラスター爆弾禁止条約の成立に関わったJCBLは、“人道”という同心円状に成立した核兵器禁止条約の発効を心から祝福します。

一方、これまで核廃絶を目標に毎年国連決議案の採択に注力してきたにもかかわらず、同兵器が国際法で禁止されることを拒み、核兵器の包括的な禁止への梯子を外し、核保有国を擁護し続ける日本政府の態度に強い憤りを禁じえません。

対人地雷、クラスター爆弾の禁止協議の際にも議論となった「保有国の巻き込み」は、それぞれの条約が成立、発効し、義務の遵守と普遍化が進む中で確立された「規範」によって、実質的な効果(使用、生産、移譲などの禁止)を発揮しています。

日本政府は、核兵器においても核廃絶を求める国々と核保有国との「橋渡し役」を自認するのであれば、一刻も早く同条約を批准し、核兵器禁止の立場を明確にすること。そして、核兵器禁止の国際的規範の確立に戦争被爆国としてのリーダーシップを発揮することを強く求めます。

2021年1月18日

                     特定非営利活動法人 地雷廃絶日本キャンペーン

                                代表理事 清水 俊弘

 

*参考資料

対人地雷からクラスター爆弾、そして核兵器廃絶へ

核兵器禁止条約(以下、核禁条約)は、1997年に成立した対人地雷禁止条約(通称オタワ条約)、そして2008年に成立したクラスター爆弾を禁止する条約(通称オスロ条約)の経験と蓄積の上に成立した条約である。

1990年代には、対人地雷は年間2万4千人の被害者をもたらしていた。特定通常兵器使用禁止制限条約の第2議定書で規制されていたものの、抜け道や大国の思惑、加盟国の伸び悩み等の理由によって使用を食い止めることが出来ず、そのままでは被害者減少を見通すことはできなかった。そうした状況に業を煮やした世界の市民社会ネットワーク(地雷禁止国際キャンペーン=ICBL)や一部の全面禁止推進諸国、国際機関が協働して成立させたのがオタワ条約である。大国の反対を押し切って一部の諸国だけで、且つICBLや国際機関が参加する形で条約交渉を行うのは極めて異例のことだった。それでも、ICBLの功績を評価したノーベル委員会は平和賞の授与に際し、オタワ条約が「他のモデル」になると、他の非人道的兵器を廃絶する道が開けるよう期待を込めた。

果たしてオタワ条約方式がその後も繰り返されるのか。識者の中でも判断が分かれていたが、10年近くの時を経てオスロ条約が同様の手法により成立し、このたび核禁条約も成立・発効に漕ぎつけた。

これらの条約に共通しているのは、兵器の生産・使用・移転・貯蔵を禁止するのと同時に、被害者救済とそのための国際協力を求めた点にある。今日ではこうした特徴を持つ条約は「人道的軍縮」と呼ばれるようになっている。従来の軍縮条約とは異なり、人道的軍縮は①国家よりも人々の安全と福祉を守ることを優先し、②特に兵器がもたらす「人的・環境的影響」を軽減することで民間人の保護を強化することを目指している。

国際影響力の強い一部の諸国がそれぞれの国益を最優先しながら閉鎖的な空間で最小限の合意に至る。そうした従来の軍縮交渉とは異なり、志を同じくする諸国からだけでも結果に実質的な変化をもたらす。そうした取り組みに、多様な主体がそれぞれの専門性を活かしながら参加協力する人道的軍縮は、とりわけ21世紀に入って重視されるようになった国際社会の価値観を先取りして具現する試みでもある。例えば、「誰一人取り残さない」ことを誓う「持続可能な開発目標(SDGs)」は、一人ひとりの被害の救済、自立と暮らしの向上、職業訓練による社会復帰等を盛り込む人道的軍縮と親和性が高い。また、昨今注目を集めるESG投資は非人道的兵器を生産し続ける企業の倫理意識を問い、生産元から非人道的兵器を絶つという試みであり、人道的軍縮が目指す価値観と共鳴している。

オタワ条約を起点に進んできた人道的軍縮は、今後も致死性自律兵器や人口密集地での爆発物の規制、武力紛争の影響を受けた地域の環境保護といった問題への対応でも受け継がれていくと予想される。人間の安全保障を外交の柱に掲げてきた日本政府がリーダーシップを発揮できるかどうか、注目されるところである。その一歩として、先ず唯一の戦争被爆国として核なき世界に向けた「橋渡し役」の責任をどのように果たすのか。国際社会が見つめている。

Follow me!