クラスター爆弾禁止条約発効から10年~これまでの成果と第2回再検討会議に向けての課題~

清水俊弘 JCBL代表理事

 2010年8月1日にクラスター爆弾禁止条約(オスロ条約) が発効してから10年が経ちました。条約成立前は事実上 “野放し状態”だった無差別兵器が国際法によって禁止され、保有国の多くがクラスター爆弾の使用を止め、保有クラスター爆弾の破壊を進めました。これまでに世界で約150万発の親爆弾と1億7800万発の 子爆弾の破壊が確認されています。  加盟国については、対人地雷全面禁止条約(オタワ条 約)の164カ国に比べ伸び悩んでおり、普遍化に向けて一 層の取り組みが必要とされています。 オタワ条約からオスロ条約につながる人道的軍縮の流れは、核兵器禁止条約の成立(2017年)につながりました。 深刻な人道被害をもたらす無差別兵器を禁止する国際規 範は着実に世界に根をはりつつあります。

■大きな成果をあげた“投融資禁止運動”

 特にクラスター爆弾の製造企業に対する投融資を禁止 する運動“Stop explosive investments”は、国連で提唱されている責任投資原則(PRI)、ESG投資を最も端的に具現化するものとして注目を浴びました。 日本でも2010年に全国銀行協会が、クラスター爆弾の製造につながる投融資は行わないことを会員の銀行間で申し合わせたことに続き、2017年には、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行のメガバンク3行と第一生命、オリックスなどの金融機関がクラスター爆弾を製造する企 業自体に対する投融資を禁止する方針を明らかにしました。 この運動は、核兵器製造企業に対する投融資にも大きな影響を与え、上記のメガバンクに加え、ゆうちょ銀行など国内の複数の銀行が核兵器を運搬するミサイル製造などに携わる企業への投融資を自制する指針を定めています。

■第2回再検討会議に向けて

 11月にはスイスのローザンヌにて第2回再検討会議 (2RC)の開催が予定されており(23日~ 27日)、この先5年の行動計画(ローザンヌ行動計画)が策定されます。  クラスター爆弾禁止条約の普遍化と着実な実施により、生存者の身体的回復と社会復帰、そして新たな犠牲者のない未来を実現するために、私たちは引き続き、条約の適切な履行を監視するとともに、未加盟国の早期参加を求めていきます。

①クラスター爆弾使用の根絶 ~シリア政府軍によるクラ スター爆弾の使用とロシアの支援~

 ロシアの支援を受けたシリア政府軍によるクラスター 爆弾の使用が取り沙汰されて間もなく10年になろうとしています。クラスター爆弾モニターの2009年から2018年の 間に記録されているクラスター爆弾の犠牲者の8割がシリア軍による同兵器の使用が原因とされており、一刻も早く同軍による使用を止めることは喫緊の課題です。

②普遍化の促進 ~加盟国を増やすために~

 2020年8月6日にニウエが批准書を国連に寄託し、オスロ条約の加盟国は109ヵ国となりました。しかし、2015年の第1回再検討会議以降に加盟した国は11ヵ国に留まっており、同会議で策定されたドブロブニク行動計画で目標とした130カ国には程遠い状態にあります。条約の実効性や規範力を高めるために、加盟国はもとより、世界各国のCMCメンバーも地域レベル、二国間のあらゆるチャンネルを使って新規加盟国を増やす努力を続けています。

③条約義務の遵守と適切な履行

 条約3条(貯蔵爆弾の破壊)、条約4条(不発弾の除去)の 実施期限を迎える国があります。  条約3条では、貯蔵爆弾の“速やかな破壊”と“8年以内の 実行”を厳しく求めています。しかし、ブルガリア、ギニアビサウ、ペルーの3カ国については期限内に完了していないにもかかわらず、条約の趣旨にあう適切な延長計画が 出されていません。  また条約4条については“、速やかな除去”を前提としながらも“10年以内の実行と5年までの延長”が認められていますが、期限を過ぎている国(ラオス、ドイツ)や期限内 の完了が困難と思われる国(チリ、レバノン)もあります。  条約の実効性を維持するためにも、これらの国々に対し 条約義務の誠意ある履行を強く求める必要があります。 

クラスター爆弾禁止条約に遅滞なく加盟すべき12の理由

12 reasons why States should join the Convention without delay

~ ICBL/CMCグローバル・ユニバ―サライゼーションキャンペーン~

ICBL/CMC (地雷禁止国際キャンペーン / クラスター兵器連合)は、クラスター爆弾禁止条約(CCM) 12 周年及び発効 10 周年を記念し、現在 109 の加盟国を緊急に増やすため、世界中で共有すべきその 12 の理由を作成しました。以下はその日本語訳です。

  1. クラスター爆弾は民間人も戦闘員も区別なく、広範囲で無差別に殺戮を行うものです。誰であろうと、どこであろうと、いかなる状況下であっても、これらの非合法な武器の使用を許すことはできません。
  2. 国際的な人道法をもっと広め、国々の努力をさらに強め、法を遵守し、軍縮を進め、平和を広げ、人々を守 る世界を実現させます。
  3. クラスター爆弾の使用により必然的に起こる人道上の悲惨な結果は、軍事的に得られる利益をはるかに上回ります。最も厄介なことに、クラスター爆弾は使用後、 何年にもわたり爆発機能を残し、人々を殺害し続けま す。それらはいずれ自国の人々の生命を奪う可能性もあるのです。
  4. CCM の締約国であれば、国際協力と援助を受けられます。条約に参加することは、クラスター爆弾の影響 を受けている国々にとって、それまで単独で取り組んできたことに、共に闘う機会を得ることです。
  5. この恐ろしい武器と関わりたいものなど誰もいません。ごく一部の国家と少数の非国家武装組織のみがクラスター爆弾を使用し、世界の各地から大きな非難を受けています。
  6. クラスター爆弾禁止条約の遵守は持続可能な経済成長を支えます。世界経済が深刻な不況に脅かされている中でも、条約で義務化された不発弾の除去と土地の再生は、被害を受けた地域社会に力を与え、経済的な自立を可能にします。
  7. クラスター爆弾が二度と使われないように、そして深刻な被害に対処するために集まった国家、国連機関、 市民組織からなる国際共同体に参加してください。かつてクラスター弾を保有し、生産し、使用していた国も含め、世界のあらゆる地域から 120 を超える国と地域がすでに条約に賛同しています。
  8. クラスター爆弾の被害を受けている国々と連帯しましょう。この条約に参加することで、クラスター爆弾の犠牲となった人々と地域社会を支援すること、また、自分たちには支援を受ける権利があると明確に意思表明することとなります。
  9. 未来の苦しみを食い止め、世界の安定を支えましょう。 CCMへの参加は、それぞれの国と世界にとって、国 連安保理による全世界への停戦要請に沿った人間の安全保障への投資となります。
  10. 持続可能な開発目標(SDGS)の達成に貢献しましょう。CCM は、いくつかの SDGS のグローバル目標と、 「誰も置き去りにしない」、という全体の目標実現に貢献します。
  11. クラスター爆弾のおぞましい残骸に立ち向かうことで人権を擁護しましょう。クラスター爆弾は、子爆弾 が飛び散ったのち何年もその不発弾に触れるあらゆる人々をじっと待ち続けます。この死をもたらす遺物はクラスター爆弾の使用後、何十年もの間、地域社会の暮らしや、開発、人権の享受を妨げます。
  12. 国の大きさに関わらず、CCM を批准すること自体が、 クラスター爆弾の世界的な禁止と市民の保護に向けた 強力なメッセージとなるのです。

(翻訳:上沼美由紀 JCBL理事)

ミャンマーにおける新型コロナウイルス対策の現状と義足支援

アウン・チャン・タン JCBLミャンマー地雷犠牲者支援現地コーディネーター

 JCBLが2017年から義足支援を続けているミャンマー。今年に入ってからの新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大している中、支援活動はどうなっているのか。現地コーディネーターから届いたミャンマーにおけるコロナウイルスの感染予防対策と活動の現状についての報告です。

■功を奏した政府の迅速な対応

 ミャンマー政府は、中国・武漢で発生した新型ウイルスの通知をWHOから受けた直後から国境検問所での監視の準備に着手し、2月1日には中国人向けの到着ビザ (VOA)の発給を停止しました。また、ティンジャン(ミ ャンマー正月)での水掛け祭りイベントの中止や、ヤンゴンなど大規模な町で外出自粛措置に踏み切ったことで、 ウイルス拡大を早期に抑えることができました。  8月14日現在、ミャンマー国内における感染者数は計369 名で、うち回復者は321名、死亡者は6名となっています。  過去1ヵ月以上にわたり確認された感染者のほぼ全員が海外からの帰国者で、国内での市中感染は見られません。 ですが、今後隣国のインド、バングラデシュでの感染拡大の影響を受ける可能性もあるので、政府も警戒感は緩めていません。  とは言え、現在は特に厳しい行動制限(居住地区外に 出る場合は「住民証明書」が必要)はなく、日常生活に支障をきたすことはありませんが、海外との流通の停滞や商品需要の減少によって、職を失う人々が増えていることは確かです。

■平常通り稼働している義足工房

 新型コロナウイルスの影響で義足工房の稼働状態が心配されましたが、幸い工房のあるカヤー州、ロイコー地区ではウイルスの感染者は出ておらず、通常通り作業を行うことができています。しかしながら、食材などの生活必需品の価格上昇や仕事が減るなど、生活面では少しずつ影響が出始めています。  2017年に始まったミャンマー地雷犠牲者支援は、半年間で50人を目標に義足を提供する事業です。開始からこれまでに約200名の方々に義足を提供することができました。  直近の半年(2 月~ 7 月)間では 44 名の方々の義足を製作しています。 44名のうち40代 (13名 )、50代(17 名)で全体の7割近くを占めており、 次いで多いのが30 代(8名)です。女性は3名のみで残りは全て男性です。 このことは、内戦時代にタイとの国境周辺で地雷を踏んだ人が多いことを表していると同時に、家族を支える 実働年齢層に犠牲者が多いことを示しています。

 これまでは、義足を付けることによって、市場での荷運びや清掃、販売などの仕事に就くことができましたが、 コロナウイルスの影響で、そのような仕事が減少傾向にあり、義足を付けても、すぐに収入につながる仕事に結びつけることが難しくなってきています。 

 この状態が長引けば、生活のさらなる悪化は避けられません。なので、義足工房を稼働させながら、何か収入につながる道を同時に模索していく必要があります。もとより、犠牲者の社会復帰は長期的な視点で考えなければなり ませんが、その前提となる社会そのものがこのような形で 不安定な状態になることは想定していませんでした。 

 こうした状況で真っ先に職を失うのは彼らのような立場の人々です。持続的開発目標= SDGsで謳う「誰一人 として取り残されない」社会を目指すには、この構造を十分に理解した上で、その土地、その人にあった支援が必要です。  JCBLは、引き続き近隣のアジア諸国で活動する仲間たちと連絡を取り合いながら、ポストコロナの活動を考え ていきたいと思います。

(翻訳・補足 清水俊弘 JCBL代表理事)

レバノンの大爆発事故によせて

内海 旬子 JCBL理事

 2020年8月4日の現地時間18時頃、レバノンの首都ベイルートの地中海に臨む港湾地区の倉庫で起こった大規模爆発は、少なくとも200人の死者、5,000人以上の負傷者 を出し、一時的に30万人が住むところを失うという大惨事となった。死者には少なくとも43人のシリア人が含まれている。レバノン政府は、翌8月5日に2週間の非常事態宣言を発令した(その後9月まで延期)。爆心地の港湾 地区から20キロ離れた地域でもガラスが割れたり家具が 倒れたりしたという。3つの大きな病院を含む15以上の医療機関、約120以上の公私立学校、レバノンの85%の穀 物を保管していた倉庫等が崩壊し、かねてからの経済危機、感染がおさまらないコロナ禍に加えて、さらに人々の生活を逼迫させる事態となってしまった。  これに対し、政府の怠慢や腐敗を訴える市民1万人近 くが参加する大規模な抗議デモが起こり、10日にはハッ サン・ディアブ首相が内閣総辞職を表明した。その後も市民のデモは続いている。

 ベイルートは、2011年9月にクラスター爆弾禁止条約の第2回締約国会議が開催された場所である。同条約の第1 回締約国会議は、世界でクラスター爆弾の被害者が最も多いラオスで開かれた。それに続いたレバノンは、2006 年にイスラエルによって南部のオリーブ畑を中心に大量のクラスター爆弾が落とされ、その不発弾が、木に引っかかったまま、あるいはやわらかい土壌に多く残された。 その後、この攻撃には使用期限切れのクラスター爆弾が使用されていたことが明らかとなり、それまでに何度も声は挙げられていたものの条約まではこぎつけていなかった「クラスター爆弾禁止」の機運を一気高めることと なった。 

 そのレバノンでの締約国会議は、クラスター兵器連合(CMC)にとっても感慨深く、キャンペーンがさらに盛り上がっていた。JCBLからは、北川代表(当時)と私が参加した。私にとってはこの時が初めての中東であった。 成田空港から中継地のアブダビに飛び、数時間のトランジット中に北川さんが「みんなで飲もうね」とウイスキーを買った。2015年以降にシリア紛争の犠牲者支援のために何度も中東の国々を訪ねるようになった私は、アブ ダビに寄るたびに北川さんの笑顔を思い出している。

 9月のベイルートは気候がとても良い。締約国会議に参 加した際もすっきりと晴れた青空のもと、気分よくベイ ルートの空港に降り立ち、CMCのメンバーたちと再会を 喜びながら送迎バスに乗り込んだ。しばらくして一人が 「バスが全然止まらない」と気づき、前を見るとバスは兵士の車に先導されていた。そして窓の外には銃痕のある建物がいくつもそのまま残っているのも見えて、新しいファッショナブルな建物との対比に驚き、レバノンの内戦や戦争の歴史が急に身近に感じられるようになった。  レバノンの地雷・クラスター爆弾の被害を『ランドマ イン・モニター 2019』でみると、2000年に113人を記録して以来、イスラエルの攻撃を受けた2006年に207人と突出しているが、そのほかの年の年間被害者数は減少している。近年では、2017年に、レバノン地雷対策センター 発表の民間人被害者28人のほか、兵士5人と地雷除去人1人、「イスラム国」(IS)の埋設した地雷による死傷者2名 が報告された。2018年の被害者数は36人で、そのうち8人 がシリア人であった。 

 レバノンの東隣がシリアである。ベイルートとシリア の首都ダマスカスは100km程の距離で、国境で1時間くらい要すとしても3時間ほどのドライブで行き来ができる。 そのような地理的事情もあって、現在は、トルコに次いで 2番目に多い約91万人のシリア人がレバノンで避難生活を送っている。しかし一方で、レバノンは国連難民高等弁 務官事務所(UNHCR)による難民キャンプの設置を認めず、多くのシリア人は、「非公認居住地区」と呼ばれる場所 で不自由な生活を余儀なくされている。正式な就労ができずに日雇い労働などで収入を得ていたシリア人たちにとっては、コロナ禍に続く爆発事故で仕事が激減していると思われ、十分な食事がとれなくなったり、病気になっても治療が受けられなかったりしているのではないかと心配される。 

 爆発事故のニュースを聞いてすぐに、ICBL/CMCレ バノン・キャンペーンの友人に安否を尋ねるメールを送ったところ、幸い、メンバーはみな無事だったが、事務所が全壊してしまったとのことだった。しかしそれでも爆発の被害者への支援活動を始めようとしていると聞いた。キャンペーンの仲間として心からの応援を送りたい。

コロナ禍でも止まない平和運動

趙載國 韓国地雷対策会議(KCBL) 、平和ナヌム会 常任理事

■孤立した学生達を救った“平和キャンプ”

 今年、突然コロナ・ウイルスが世界中に広がり、私たちの生活を一変させました。その中でどこにも行けずに立往生している外国人留学生たちは、特に大変な生活を強いられているようです。韓国では、たくさんの外国人旅行者や留学生などが寮やホテルに閉じこめられ、途方に暮れながら本国へ帰れる日を待っています。 

 私の勤める延世大学にも 100 名以上の外国人留学生が 寮に住んでいますが、非対面授業のために教室に行けず自分の部屋でパソコンに頼って勉強しています。彼らは、例年と違って夏休みに入っても誘われることも、また課外活動もないので、大学生として必要な最小限の情報も得られない中、やや孤独な生活を送っていました。  そこで、平和キャンプを企画して留学生たちに呼びかけたところ、数時間の間に予定した 20 名を超えた 27 名のメンバーが揃いました。韓国の学生 5 名と日本の学生 3 名、そして世界の国々から一名ずつ 19 名です。当然のことながら、大学の関係者などたくさんの人々が心配して下さいましたが、徹底したコロナ予防対策をとることを前提に、7 月 27 日、ソウルから出発して 4 時間ほどで 「DMZ(非武装地帯)平和生命教育センター」に到着し、 プログラムを開始しました。 

 一日目の夜には、大学の教授と共にコロナ禍での学生たちの経験や苦労、大学への要求などを真剣に聞いて、 大学の担当者に伝えると約束しました。そこから一週間、毎日の体温測定、食事時の距離の確保、マスク着用、現地の人とは非対面とするなどに心を配りながら予定したプログラムを進めていきました。二日目の朝 7 時より学生たちは農村奉仕に当たり、農夫たちに連れられていろいろな農作業をしました。毎日午前中には農村奉仕をして農繁期の農夫たちを助けましたが、例年であったら多くの学生や軍人が訪ねて農夫たちを助けてくれたはずなのに、コロナ禍によって誰も来られなくなり大変でした。

■地雷問題の現実を知る

 ある日の午後には、近所に住む地雷被害者二人を招き、地雷事故の状況や治療、生活などについて証言を聞きました。一人は 10 代の時、家から近い湖の畔で友だちと“おもしろい”物を見つけて遊んでいる内にそれが爆発して片目と両手を失いました。彼は、それが「M14 プラスチック製対人地雷」であったことが 10 年後にやっとわかったと話しました。もう一人の被害者も、道端で同じ物を拾って家に持ち帰ったところ爆発して片足を失ったのですが、彼もその物が「M14 プラスチック製対人地雷」であることを 40 年後に知ったと言うのでした。当時の地雷原の状況や、地域の担当軍部隊の地雷管理や文民安全の怠慢など状況が深刻だったことがわかりました。 

 その日の夜は、近所に住む外国人労働者二人を招いて学生たちとの対話の時間を持ちました。その二人はタイ語しか話せず、はじめは戸惑っていましたが、参加者の学生の一人が寮にいるタイ人留学生に電話通訳を頼んでくれました。彼女たちが住んでいる江原道亥安面という地域は、人口が 1,500 人ほどであるのに対し、300 人ほどの外国人労働者が働いているとのことで、もはや農村では外国人労働者なしでは農作業が成り立たないことがわ かりました。 

 学生たちは、平和問題に関する講義を聞き、質疑応答を通して内容を深めていきました。韓国政府の海外援助 を担当する新農村運動本部の担当者の講義に関心を寄せ、 また南北平和問題に大きな関心を示し、活発な議論をしました。とくに北朝鮮の経済的開放においては、中国式の経済改革が必要だが、まだ資本主義経済についての認識が足りず、「ジャンマタン」という私的な市場が広がっていると言っても、主流の人々が市場経済を理解するには時間が必要なのではないかという話もありました。

 日本からは、JCBL 副代表の目加田説子先生が ZOOM を通して、“The Role of Transnational Civil Society in Building International Norms(国際規範を築く国境を越えた市民社会の役割)” という題で世界的な地雷禁止運動の中で市民社会が築いてきた人道主義の規範についてお話をして下さいました。学生たちも積極的に質問して国際的な地雷運動について関心を表しました。目加田先生の講義が終わったところで、JCBLの団体会員でリズム ネットワーク主宰の上井滋子さんが送ってくれた手作りマスクとお菓子が学生たちに配られ、大喜びでした。 

 このプログラムは、もともと早稲田大学と延世大学の学生たちが、毎年夏休みに地雷被害者の住む農村での奉仕活動の一環として行われていたものでした。それが 14 年目の今年は、コロナ禍のために日本から学生たちが来られなくなって、代わりに外国人留学生を招いての平和 キャンプとして実施しました。平和キャンプを無事に終えてソウルに戻った後、韓国は大雨で至るところで水害が起こり、大変なことになりました。とくに非武装地帯付近で地雷が流失してしまい、 農村の人たちが家の壁際や田んぼで地雷を発見して、テレビでも報道されました。

■洪水で流された地雷の恐怖

 地雷を発見した住民によると、洪水で流れてきたゴミに「M14 プラスチック製対人地雷」がつながっていたり、 また田んぼの中でも同じ地雷が流されてきていたりしたそうです。非武装地帯付近の地雷原には、朝鮮戦争以後 100 万個以上の地雷が埋設されていると言われていますが、このような大雨で流れて、時には川辺や田んぼ、ひいては仁川空港近くの島の海辺で爆発事故が起きたこともあります。とくに、主に米軍が用いた「M14 プラスチック製対人地雷」は、69 グラムで軽くて流れやすいうえ、高性能探知機でも探知することができないので、流失した場合には民間人の地雷事故の原因になる可能性が非常に高くなります。 実際、たくさんの民間人の地雷被害者が、このように流失してきた地雷の被害に遭っています。去る 7 月 4 日にも、ソウル市を横切る漢江の金浦付近の川辺で、一人の住民が流失した地雷の爆発事故に遭いました。 

 このような地雷問題を解決するために、韓国政府は苦心しているようです。韓国の国防部は朝鮮戦争以来今日までひたすら地雷の効果的な使用を考え続けており、地雷の除去あるいは事故防止のために努力した痕跡はないのです。昨年秋、文在寅大統領が、国連演説で国際社会の協力を得て韓国の地雷除去を行うと言及してから、韓国軍はソウルの牛眠山などに埋設されている地雷を除去するために動いていますが、そのほとんどの地雷が探知出来ない「M14 プラスチック製対人地雷」 であるために苦労しているようです。合同参謀本部は、 来年まで後方における 30 ヵ所以上の地雷原から地雷を除去したいと話していますが、成功させるためには国連などの助けが必須だと思われます。というのは、韓国軍は、 約 10 年前にも除去作戦を 5 年間かけて行いましたが、失敗に終わり、たくさんの地雷を残したまま今に至っているからです。 

 他方、韓国の地雷問題の話において欠かせないことは、 毎年の地雷事故による民間人被害者の存在です。韓国地雷対策会議 (KCBL) が昨年行った京畿道内の地雷及び不発弾による民間人被害者調査の報告書によると、約 970 名が朝鮮戦争以降に事故に遭っており、そのうち 52%が 19 歳以下の若者です。子どもたちが対戦車地雷を拾って持ち帰る途中で爆発し、12 名が犠牲になって、そのうちの 3 人兄弟が死亡したこともあります。また路線バスが 対戦車地雷を踏み、爆発して 4 名が死亡、8 名が負傷したこともあります。 

 世界的な地雷廃絶運動は、国を超えた市民社会がいろいろなハードルを乗り越えて築いてきたものであり、どんな状況においても続けていかなければなりません。日本の隣国にある地雷問題や地雷被害者に心を寄せて下さる JCBL とその会員の方々に改めて感謝いたします。 

JCBL事務局だより

リビアで地雷被害が続出

 国連リビア支援団(UNSMIL)は、リビア首都トリポリ南郊では、6月だけで100人以上が 爆発物により死傷したと発表しました。地雷や簡易爆弾(IED)が民家の内部や周辺に埋設されており、犠牲者の中には一般市民や地雷処理専門家らも含まれています。 

 トリポリを拠点とし、国連が承認する国民合意政府(Government of National Accord:GNA)は、同国東部を拠点とするハリファ・ハフタル司令官率いる軍事組織による攻勢に対抗し、1年以上にわたって戦闘を継続、6月初めトリポリ首都圏を再び完全に支配下に置きました。 

 GNAと国連、さらに国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は、ロシアが支持するハフタル氏の組織が首都郊外の住宅街に地雷を設置していると非難声明を出しています。7月13日には、ステファン・ドゥジャリク国連事務総長報道官が、トリポリに仕掛けられた爆発物や地雷が原因で52人が死亡し、96人が負傷したと記者会見で述べました。 

 対人地雷全面禁止条約(オタワ条約)の締約国会議議長を務める、スーダンのオスマン・アブファティマ・アダム・モハンマド国連代表部大使代理は、「オタワ条約によって確立された規範は強く尊重されなければならない。世界のどこであれ、紛争から市民の命と健康を守るためにあらゆる手段を講じる必要がある。未だに地雷を使用する主体に対しては最大限の非難の声を上げなければならない」との声明を発表しました。 

 オタワ条約の実効性と人道的規範が弱められないよう、条約加盟国、市民が一体となって訴えていく必要があります。

■上記記事にある「リズムネットワークの…手作りのマスク」について、オタワ条約未加入国にちょうちょ型のカードを毎年たくさん送って条約参加を訴えているリズム ネットワーク主宰の上井滋子さんに説明していただきました。

 未曾有の世界的状況下で、本年の「ちょうちょキャンペーン」は実施不能と判断し、オタワ条約未 加盟国の大使館には「オタワ条約参加」を求めるレターと一緒にマスクを贈ろう!と決めました。今 後世界中でマスクが必要不可欠になる中、和柄のマスクは国際親善にも大きく役立つに違いない。 美しく華やかな総シルク、ちょうちょ柄のマスクを見れば、少しは現下の憂鬱も晴れるかもしれない。喜んでもらえたら良いね!と盛り上がり、私たちはスティホームの期間中、支援者の呉服屋さんから頂戴した山とある反物や振袖でマスクを作り続けました。元腕利きのテーラーで90歳になる叔母も協力してくれました。  まずは、行く度に篤いおもてなしをいただく韓国KCBLの趙教授ご夫妻へ「学生たちに」と航空便 で送付申し上げたところ、地雷被害者の方々へも届けて下さるとのメールが来て、すぐに追加をお送りしました。大使館宛の約500枚 のマスクは、既に発送準備が整っています。実に1500枚ばかりを縫いあげたマスクは、若干ネットや賛同者の方々への手売りもしていて、売り上げ金は全額を支援金としています。 (2020年8月28日)