ミャンマー義足支援進捗報告(2019年11月)

                             2019年11月26日
                             代表理事 清水俊弘


◇義足工房の近況及び今年度の活動進捗

スタッフのうち技師の2名が、メーソットにあるメータオクリニックの義足工房閉鎖に伴う連絡会議参加のため不在。残った4名(技師3名、経理1名)と会った。今年度事業の進捗については、8月以降10月末までに27名に義足を提供することができている。いずれも地雷犠牲者で、このうち女性は1名。11月に入ってからさらに、5名分の義足(男性4人、女性1人)を製作したので、現時点での受益者は32名となっている。受益者の選定については、過去にKNHWOで義足を作ってもらった人から、口づてに伝わっているケースも多いことがわかった。カヤ―州では、今もKPNLF(カヤン民族解放戦線)が州行政にも大きな影響力も持っており、かつて民族軍の兵士として活動していた人々に、農地などの分配をしている。その関係で、同じ集落の中に複数の地雷犠牲者がいることもあり、一人が義足を作ると、そこから次にとつながるケースもあるようだ。工房の人員を考えると、一定の優先順位付けはあるとしても、もっと多くの人を受け入れられそうな気もするが、そこは材料費との兼ね合いで考える必要がありそうだ。


チャウ・ウィンさん(43歳)

ロウ・ナウさん(39歳)

ワイ・ルーさん(40歳)


◇義足の製作工程を見ての所感

義足を作っている当人たちも地雷犠牲者であることから、計測前の聞き取り(問診のような感じ)で、相手の痛みや、具合の悪い部分などがよく分かるように見えた。材料も規格品を使わず、一つ一つ手作りでやっている。規格品を使うよりもコストを抑えられるメリットもあるだろうし、なによりも出来上がった義足には手作業のぬくもりを感じる。構造的にもよくできていて、足首に相当する部分を木でつなぐことによって、ちょっとした角度や長さも最後の段階で調整できるようになっている。

 

◇活動の成果

昨年度は56人、そして今年も開始から3カ月少々で32名まで来ており、目標としている50人は間違いなくクリアできそうだ。今回KNHWOで義足をつけた6人の人々に会ってきたが、皆、義足の装着感と動作の安定性に満足しているように見えた。中には、義足でクラッチをコントロールして長距離の運転をしている人や、重いセメントを運ぶ土方作業をしている人もおり、全てではないにしろ義足が社会参加に直結していることを実感できた。

 

一方、今年から女性のサバイバーへの支援を増やすように伝えているが、現状でまだ2名。もう少し積極的に女性のサバイバーを探す努力が必要と思われる。

 

今回サバイバーを訪問している中で、元政府軍の兵士という人々にも会った。
政府軍の兵士は政府の病院でサービスが得られるそうなので、その点では優先順位としてどうかとの判断も必要だ。一方で、反政府の運動を展開してきたKPNLF(カヤン民族解放戦線)が母体となっているKNHWOが、元政府軍の兵士も分け隔てなく対応すれば、義足工房が民族融和に一役かっているということもできる。

 
元政府軍の兵士だったというウ・チョティさん(51歳)左とウ・ディチさん(56歳)右

◇追加支援5万バーツの運用について

前年度の終了時に、主に材料費としてあと5万バーツほどあれば、工房を通年で運営することができるとの提案が現場から上げられた。これを受け、11月の理事会で追加支援を決定した。この使い方について、現場の技師たちと協議した結果、7割の3万5千バーツ(約14万円)を義足の材料費として、残りの1万5千バーツ(6万円)を工房の施設維持費として利用することを確認した。
この間の人件費については、前半の給与をやりくりする形で、常に誰かが工房にいるように調整することとした。ちなみに、コーディネーターの費用については、オンオン氏から「この期間に関してはボランティアで協力する」との意思表示があったので、彼の意志を尊重して、無償で協力してもらうこととした。

◇改善点:アウトリーチ

現行の活動において特に大きな問題点はないが、技師5人に対し、日々の受益者がそれほど多いわけではないので、工房で患者を待つだけではなく、こちらから村に出かけていき、何らかの事情で町の工房まで来れないサバイバーの掘り起こしをするよう、お願いしてきた。
工房の月例報告に加えて、やはり月に一度ぐらいは訪問カウンセリングの様子を報告するようコーディネーターにも伝えてきた。

◇課題:

①工房運営の持続性について
過去のモニタリングの報告書にもある通り、義足は一定期間ごとに修繕、更新が必要なので、工房の継続的運営について早い段階から考えておく必要がある。JCBLとしての心づもり、現地で彼ら自身が何らかの形でファンドレイジングする可能性、あるいはファンドレイジングの基盤を作るための支援を考えることも必要かもしれない。
ミャンマー政府の条約批准を促し、締約国となることによって、海外からの支援を受け入れる体制を整備することを支援終了の前提として考えている部分もあるが、現在のミャンマー政府の体制から考えると、犠牲者支援のための国家プログラムを組み、具体的な実施体制を構築するまでには、相当な時間が掛かると思われる。
次年度以降、その点も念頭においた支援のあり方を考えていきたいと思う。

②ミャンマー政府へのアドボカシー(条約批准)
現地のNGOが政府と直に対話をするのは現状では困難。当面は、外から関わる国際NGOが国際会議の場などで対話の機会を見つけるしかなさそうだ。外務省とも相談し、政府レベルでの対話を促すことも必要だ。

                                   以上