ニュースレター第77号(2017年7月)掲載
『クラスター爆弾への世界の投資ー共通する責任』の改訂版(第8版)を東京で記者発表
JCBL理事・目加田説子


金融機関によるクラスター爆弾を製造する企業への投融資状況についてまとめた報告書『クラスター爆弾への世界の投資――共通する責任』[1]の改訂版(第8版)が2017年5月23日、世界で同時発表され、今回は初めて東京で記者会見が開かれた。これは後述する通り、クラスター爆弾禁止条約(以下、オスロ条約)の締約国の中では、クラスター爆弾を製造している企業へ投融資している金融機関が最も多いのが日本であることから、上記報告書を執筆しているオランダのNGO(PAX)とクラスター兵器連合(CMC)より東京で記者発表をしたいとJCBLに相談があり実現したものだ。

前日より来日していたPAXのMaaike Benese氏とCMCのFiroz Alizada氏は、5月23日11時半に「日本外国特派員協会」で始まった記者会見に臨み、クラスター爆弾がもたらす惨事について説明した後、最新報告書の要点を簡潔に報告した。会見には、朝日新聞、佼成新聞、産経新聞、創価学会インターナショナル、東京新聞、毎日新聞、Bloomberg (US)、Pan Orient News ( Middle East)、 SkyTG 24 (Italy)、TV朝日、TBS、NHKの他、日本やドイツのフリーランス記者も含め28名が参加した。会見の模様は同日の「報道ステーション」(テレビ朝日系列)や夜のTBS系列のニュース、で報道された他、翌日から朝日新聞や東京新聞、ラジオ等が相次いで報じた(詳細はHPを参照)。

また、今年4月には民進党の長妻昭衆議院議員の質問主意書への回答によって、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がクラスター爆弾を製造している米国のテキストロン社の株を2015年度末時点で192万株(約80億円)を保有していたことが明らかになっていたことから[2]、MaaikeとFirozの来日を機に参議院議員会館で院内集会を開催(2017年5月24日14時~)した他、GPIFとの個別面談も実施した。

院内集会は社民党の福島みずほ参議院議員の尽力で実現したもので、当日は民進党の藤田幸久参議院議員や共産党の笠井亮衆議院議員が参加した他、民進党の辻本清美衆議院議員も顔を見せた(院内集会の呼びかけ人に名を連ねた自民党の逢沢一郎衆議院議員や日本維新の会の河野正美衆議院議員は出席しなかった)。

また、GPIFとの面談ではMaaikeよりPAXの報告書にGPIFの記載はないものの、次回以降の報告書で「不名誉リスト」(クラスター爆弾製造企業と関連があると指摘されている金融機関のリスト)に入る可能性がある点を指摘し、国民の年金が国際法で禁止されている兵器の製造に使われることのないよう要請した。

尚、後述するように今回の報告書で「不名誉リスト入り」している金融機関は5つだが、実際にはそれよりはるかに多い金融機関がクラスター爆弾製造企業へ投融資を行っている。というのは、クラスター爆弾を製造している企業には膨大な金融機関が関わっている為、そのすべてを調査することは難しい。従って、一定以上の比率を占める金融機関だけを「不名誉リスト」に含めているのである。JCBLではかねてよりPAXから他の金融機関についてもリストを受け取っていたことから、こうした金融機関も含めて意見交換したいと考えてきた。そこで、今回調査をしているMaaike等当事者が来日するということで、直接対話する場を設定することにし、金融機関に案内を送付した。しかし、残念ながら一社からも出席の回答は寄せられなく、民間金融機関との対話はキャンセルとなった。

下記、最新報告書の要点をまとめる。

今回の調査でクラスター爆弾を製造していることが明らかとなったは6社(China Aerospace Science and Industry(中国)、Norinco (中国)、Hanwha (韓国)、Poongsan (韓国)、Orbital ATK (米国)、Textron (米国)[3][4]で、世界では166の金融機関が延べ310億ドルをクラスター爆弾製造企業6社に投融資してきたことが明らかになった。金融機関の国別内訳は、1位米国、2位中国、3位韓国で、166機関の内オスロ条約の締約国の金融機関は15なのに対し、加盟していない諸国の金融機関は151に上ることから、条約加盟と金融機関の取り組みには相関関係が認められることが今回の報告書でも明らかになっている。

尚、報告書ではクラスター爆弾製造企業に投資している金融機関を「不名誉リスト(Hall of Shame)」、投融資を禁止している機関を「名誉リスト(Hall of Fame)」、取り組みは進めているものの不十分な機関を「次点リスト(Runners-up)」の3つに分類し公表している。今回の改訂版で対象となった調査期間中(2013年6月1日~2017年3月17日)、日本の金融機関で「不名誉リスト」に名を連ねたのは第一生命、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、オリックスの4社で、全て米国のOrbital ATK社及びTextron社に対する債権や融資等だった[5]。三菱UFJフィナンシャル・グループはクラスター爆弾製造企業との取引額で世界の7位に入っており融資額でも3位、投資・銀行業務でも5位に入っている。「名誉リスト」入りした日本の金融機関はなく、前回に引き続き三井住友信託銀行(SMTB)が「次点リスト」に入りした。SMTBは、クラスター爆弾製造企業を投資対象から除外しているものの、その方針が関連企業である三井住友トラスト・アセットマネジメント及び日興アセットマネジメントに及んでいない点が不十分と指摘されている。

世界で「名誉リスト」入りした機関は42機関で、全て締約国の金融機関だった。また、「次点リスト」入りした46機関も全て締約国の金融機関だった。その他、クラスター爆弾製造企業への投融資を禁止する法律を制定している国が10ヵ国あり、その他28ヵ国がクラスター爆弾製造企業への投融資はオスロ条約に抵触すると判断・解釈していることも報告されている[6]


日本外国特派員協会での記者会見(吉田敬三氏撮影)


参議院会館での院内集会

[1] 同報告書の正式名称はWorldwide Investments in Cluster Munitions—A Shared Responsibilityで、2009年の初版以降、今回は8 回目の発行となる。初版(2009年10月)以降の発行は、第2版(2010年4月)、第3版(2011年5月)、第4版(2012年6月)、第5版(2013年12月)、第6版(2014年11月)、第7版(2016年6月)で、最新版はhttp://www.stopexplosiveinvestments.org/よりダウンロードできる。

[2] 政府は、平成21年に制定した「クラスター爆弾禁止法」によってクラスター爆弾の製造を禁止し所持などの規制を定めている一方、「同法はGPIFがクラスター爆弾を製造している外国企業の株式を保有することを禁止しているものではない」として、テキストロン社の株保有は問題ないとの見解を閣議決定している。

[3] Textron社は2016年8月、センサー信管兵器(Sensor-Fuzed Weapon=SFW、クラスター爆弾禁止条約で禁止対象)の製造を2017年最初の四半期で停止すると発表したが、運搬手段については2017年中も製造を継続することから、製造企業に含まれている。

[4] 尚、製造企業のリストにはクラスター爆弾(主要な部品)製造の明確な証拠がある企業しか含まれていないため、他にクラスター爆弾を製造している企業がないということではない。

[5] 日本は、2010年にクラスター爆弾禁止条約が発効した当初より締約国となったことから、同年10月に全国銀行協会が「「良き企業市民」としての社会的責任に鑑み、クラスター弾の製造を資金使途とする与信は、国の内外を問わず、これを行わないことを申し合わせる」と発表している。一般社団法人全国銀行協会「クラスター弾に関する条約の発効を受けた銀行界としての取り組みについて」2010年10月9日、http://www.zenginkyo.or.jp/abstract/news/detail/nid/3099/

[6] 国内法を制定しているのはベルギー、アイルランド、イタリア、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、サモア、スペイン、スイスの10ヵ国。投融資は条約に抵触すると判断・解釈しているのは以下の国と地域:オーストラリア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、カナダ、カメルーン、コロンビア、コスタリカ、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、クロアチア、チェコ、フランス、ガーナ、グアテマラ、バチカン市国、ハンガリー、ラオス、レバノン、マダガスカル、マラウィ、マルタ、メキシコ、ニジェール、ノルウェー、ルワンダ、セネガル、スロベニア、英国、ザンビア。


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