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『ランドマインモニター報告 2009 年版』
主な注目点

地雷禁止国際キャンペーン(ICBL:International Campaign to Ban Landmines)は、2009 年11 月 12 日午前 10 時(01:00 GMT)、『ランドマインモニター報告 2009 年版』を発表しました。
ICBL は、1999 年に対人地雷全面禁止条約が発効して以来、毎年同報告書を発表し、各国の条約の履行状況をモニタリングしてきました。その成果は、被害が生じる現場に根ざした市民社会の調査による「信頼できるデータ」として国際社会からも注目され、年間の犠牲者数の減少や対人地雷の使用の減少となって現れています。

今月末 11 月 30 日から 12 月 4 日まで、コロンビアの湾岸都市カルタヘナにおいて、対人地雷全面禁止条約(オタワ条約)の第 2 回再検討会議が開催され、条約の見直しと今度の課題の検証が行われます。その意味で、今年度の報告の内容が条約再検討に向けた重要な道しるべとなることから、特に過去 10 年間の地雷・不発弾の問題を総括しています。

『ランドマインモニター報告 2009』が報告する「主な注目点」は、以下の通りです。

<日本について 2008 年~2009 年>
● 2008 年の地雷対策への支援額は 5,160 万 US ドル(53 億 1800 万円)であった。これは、ECの 8,950 万 US ドル、アメリカの 8,500 万 US ドルに次いで、世界で 3 番目に多い拠出額であり、07 年より円換算で 27%増加している(07 年は、41 億 7600 万円)。
● 2009 年、沖縄のアメリカ軍基地で 2 件の不発弾処理中の事故が発生し海兵隊員 1 人が死亡、4人が負傷した。1974 年以降最大の事故。「第 2 次大戦後 60 年、沖縄には未だにおびただしい数の爆弾がある」エリック・タルマッジ(カナディアン・プレス、2009 年 5 月 3 日)

<オタワ条約発効後の 10 年間 1999 年~2009 年>
(地雷の使用)
• この 10 年間、政府軍による対人地雷の使用は大幅に減少した。1999 年、ランドマインモニターは 15 の国による対人地雷の使用を確認したが、2007 年に対人地雷を使用した国はミャンマーとロシアのみである。
• 非国家武装集団による対人地雷の使用も同様に減少した。過去 10 年間で、少なくとも 13カ国、59 の非国家武装集団が対人地雷の使用禁止に同意した。

(地雷の除去)
• 11 カ国が自国内に確認したすべての地雷原を除去した。それらは、ブルガリア、コスタリカ、エルサルバドル、フランス、グアテマラ、ホンジュラス、マケドニア、マラウィ、スリナム、スワジランド、チュニジアである。
• 1999 年以降、90 以上の国と地域で少なくとも 1100 平方キロメートルの地雷原と 2100平方キロメートルの戦闘地の地雷と不発弾が除去された。除去作業を通して、220 万個の対人地雷、25 万個の対車両地雷、1,700 万個の爆発性戦争残存物(ERW)が処理された。
• 2009 年 8 月時点で、70 カ国以上が地雷埋設国であると考えられる。

(犠牲者・サバイバー)
• データ収集の努力を続けてきた結果、ランドマインモニターは過去 10 年間で 119 の国と地域において、少なくとも 73,576 人の地雷、ERW、犠牲者の動作で起爆する手製の爆発物等による死傷者を確認することができた。
• 過去 10 年の地雷対策の中で犠牲者支援が最も進展しなかった部分である。地雷対策全般には多額の資金が拠出されたが、犠牲者支援の分野では必要とされる金額に達していない。ほとんどの支援の努力が、しばしば国際的な組織や国際的資金援助のみに支えられ、生存者やその家族、コミュニティーの経済的自立を促す支援よりもむしろ、医療や身体リハビリの支援に焦点が当てられた。
• 第 1 回再検討会議(2004 年)において、締約国はサバイバー(地雷事故による生存者)を多く抱える 23 カ国(その後 26 カ国)に対して特別の対応をとることに同意した。しかし、2005 年から 2009 年の間の進捗状況は国、分野によって異なる。最も顕著に進展した部分は調整(コーディネーション)であり、実際のサバイバーへの支援の実施は限定的だった。また、26 カ国が作成した計画に関連無く支援が実施されることもあった。

(地雷回避教育)
• 地雷および ERW の危険回避教育は、過去 10 年間で大幅に進展した。多くのプログラムで、単なるメッセージを伝える方法から、人びとの行動に具体的な変化が伴う手法への変化が起こっている。
• 回避教育を伴った除去活動が死傷者数の大幅な減少につながっている。推定死傷者数は条約発効初期の年間 2 万人を大きく下回り、2008 年には 5,200 人となっている。

(オタワ条約)
• 世界の 4 分の 3 を占める 156 カ国が対人地雷禁止条約の締約国である。現在、中国、インド、パキスタン、ロシア、アメリカを含む 39 カ国がまだ批准を行なっていない。その内、マーシャル諸島とポーランドは署名国であるにも関わらず未批准である。

(地雷の製造・移譲)
• 過去に対人地雷を製造していた 38 カ国が製造を中止した。実際に対人地雷を製造している、もしくは製造する能力を有している国は 13 カ国である。
• 過去 10 年の対人地雷の移転は、非合法取引で、かつ数も限定されたものにとどまっている。

(保有地雷の廃棄)
• 条約に関する極めて重大な違反として、保有地雷の廃棄の問題がある。2008 年 3 月 1 日に廃棄期限を迎えた国の中で、ベラルーシ、ギリシア、トルコの 3 カ国が期限内に廃棄を完了できなかった。これら 3 カ国は、2009 年 9 月時点でも廃棄を完了していない。
• 86 カ国が保有地雷の廃棄を完了し、4 カ国が廃棄中である。これらの国がこれまでに廃棄した対人地雷の数は 4400 万個に上る。

(国際的な資金援助)
• 1992 年から 2008 年の間に地雷対策に拠出された総額は 42.7 億 US ドルだった。

<2008 年~2009 年の注目点>
(地雷の使用)
• ミャンマーとロシアの 2 カ国のみが 08 年と 09 年の間に対人地雷を使用した。また、少なくとも 7 カ国で非国家武装集団が対人地雷を使用した。これは前年より 2 カ国少ない。

(地雷の製造)
• 2008 年には、インド、ミャンマー、パキスタンの 3 カ国が対人地雷を製造していたとみられる。また、ランドマインモニターは他に 10 カ国を製造国と考えているが、これらの国が昨年地雷を製造したという事実は確認できていない。

(保有地雷の廃棄)
• ベラルーシ、ギリシア、トルコの 3 カ国が 2008 年 3 月 1 日の保有地雷の廃棄期限内に廃棄を完了しなかった。これらの国は 2009 年 9 月時点においても廃棄を完了しておらず、オタワ条約に違反している。
• 3 カ国が保有地雷の廃棄を完了した。それぞれ、インドネシア(2008 年 11 月)、エチオピア(2009 年 4 月)、クウェート(2009 年 7 月に表明)である。

(クラスター爆弾禁止条約)
• 2008 年 12 月、94 カ国がクラスター爆弾禁止条約に署名した。これはクラスター爆弾の使用、製造、保有、移転を包括的に禁止するものである。また、被害地域の除去や犠牲者・コミュニティーへの支援なども義務として含まれる。(註:2009 年 11 月 11 日時点で、24カ国が批准した。30 カ国に達した 6 ヶ月後に発効することになる)

(地雷除去)
• 地雷被害国は、オタワ条約の締約国になった後 10 年以内に自国の管理・管轄下にある埋設地雷を除去しなければならない。最初の期限は 2009 年 3 月 1 日に迎えたが、15 カ国が期限内に除去を完了できず、2008 年 11 月ジュネーブで行なわれた第 9 回締約国会議において、1 年から 10 年の延長が認められた。それらの国は、ボスニア・ヘルツェゴビナ、チャド、クロアチア、デンマーク、エクアドル、ヨルダン、モザンビーク、ニカラグア、ペルー、セネガル、タイ、イギリス、ベネズエラ、イエメン、ジンバブエである。
• 2009 年には、アルゼンチン、カンボジア、タジキスタン、ウガンダの 4 カ国が 3 年から 10年の期限延長を求めている。
• 2008 年には 160 平方キロメートルの地雷原が除去された。これはこれまでで最も多い除去面積である。
• 2009 年 5 月、チュニジアが除去を終了した 11 番目の国になった。

(犠牲者・サバイバー)
• 2008 年の地雷、不発弾、手製爆発物等による死傷者数は 5,197 人である。この数字は毎年減少傾向にある。
• 2008 年から 2009 年を通して、サバイバーへの精神的サポートと経済的復帰への支援は依然として課題である。他方、医療、リハビリ、障害者に関わる法と政策に関しては進展もみられた。パキスタン、スリランカでは、紛争や自然災害のために一部地域もしくは全土での支援サービスが低下した例もある。また、この期間中に、NGO や障害者団体が活動を停止したり、継続的なキャパシティの問題、持続的資金不足に陥る例もみられた。
• 他の傾向として、国際 NGO が行っていた身体のリハビリテーション・プログラムの被援助国政府の管理への移譲が続いたこと、サバイバーの団体が増え、団体の強化が続いたことが挙げられる。

(地雷回避教育)
• 2008 年には、57 カ国で回避教育が実施された(2007 年は 61 カ国)。回避教育はイエメン、ソマリランドで大幅に増加、その他の 10 カ国でも増加傾向にあった。パレスチナでは2008 年に回避教育の数は減少したもの、2008 年 12 月から 09 年 1 月のガザ攻撃を受け、急激に増加している。
• 2008 年、26 の国と地域において、回避教育は包括的なニーズ調査がないままに実施されている。例えば、最も古い地雷対策プログラムを持つアフガニスタンでの EU の調査によると、回避教育のターゲット層をよく理解しないままに回避教育が行なわれている。

(国際的な資金援助)
• 2008 年の世界の地雷対策に対する資金は 6 億 2600 万 US ドルであった。これは国際、国内の資金を合わせたものである。国際的な支援は、5 億 1800 万 US ドルであり、23 の国から拠出された。これは 2006 年の 4 億 7500 万 US ドルを上回るものである。最も多かったドナーは欧州委員会だった。
• 2008 年の支援は、少なくとも 54 の国と地域に配分された。受け取り国の上位 5 カ国は、多い順に、アフガニスタン、スーダン、イラク、レバノン、カンボジアであった。

地雷廃絶日本キャンペーン代表 北川泰弘のコメント
「年間の犠牲者数が減少していることはひとつの前進ですが、障害を負って苦しんでいる生存者の数は累積します。年間の犠牲者数が減少したことで支援の手を緩めるのではなく、むしろ累積していく生存者への支援の強化をより迅速に進める必要があります。」