ランドマインモニター2015 (”Landmine Monitor Report 2015”)
Major Findings(大要)

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主な出来事
世界は、地雷のない世界の実現に向けて進展しているが、同時に非国家主体による対人地雷の使用の増加や被害者の増加などの課題にも直面している。また、地雷の除去を終えた国は増加しているものの、計画通りに除去が進んでいない国も多い。さらに、地雷対策に向けた支援額は 2 年続けて減少している。

対人地雷全面禁止条約の締約国
現在、締約国の数は 162 ヵ国、署名国の数は 1 ヵ国(マーシャル諸島)となっている。(訳注:国連加盟国 193 ヵ国、非加盟国 4 ヵ国として、オタワ条約の非締約国は 34 ヵ国である。国連非加盟はパレスチナ、バチカン、クック諸島、ニウエの4ヵ国)

使用
2014年10月から2015年10月の間に、ミャンマー、北朝鮮、シリア(いずれも非締約国)が対人地雷を使用した。

• 北朝鮮は、韓国との軍事境界線沿いに新たに地雷を埋設したことを否定したが、2015 年 8月の国連の調査は新たに地雷が埋設されたと結論付けている。
• シリア政府による地雷の使用が 2011 年に初めて記録された。また、ミャンマー政府による地雷の使用は 1999 年以降毎年記録されているが、新たな地雷の使用は過去数年の中で最も低いレベルだった。

非国家主体による地雷および犠牲者が起爆させるタイプの IED(即席手作り爆発物)の使用が 10 か国で確認された。10 か国は、アフガニスタン、コロンビア、イラク、リビア、ミャンマー、パキスタン、シリア、チュニジア、ウクライナ、イエメンである。(訳注:攻撃者が起爆するタイプ、自爆、遠隔制御等の爆発物はオタワ条約が禁止する「地雷」の定義に入らない。)

• 10 ヵ国以上で非国家主体が、対人地雷、または犠牲者が起爆させるタイプの IED を使用したケースが報告されたのは 2006 年までさかのぼる。

2014 年 10 月から 2015 年 10 月の間に締約国による新たな地雷の使用に関する報告はなかった。条約の履行に関する委員会はスーダン、トルコ、ウクライナ、イエメンの代表と会談し、過去の対人地雷の使用に関する対話を行った。一部の締約国の対人地雷の使用の例は、2008 年にさかのぼる。

犠牲者
2014年、地雷や、犠牲者が起爆させるタイプのIED、クラスター爆弾、その他の ERW(戦争残存爆発物)による犠牲者は 2013 年と比較して増加した。しかし、1999 年以降の数字としては過去 2 番目に低い数字であった。

• 2014 年の世界全体での犠牲者数は、3,678 人であった。これは 2013 年の3,308 人から 12%の増加である。
• 2014 年は、平均して 1 日 10 人が地雷の被害にあった。これは、1999 年の 40%である。1999 年は、1 日平均して 25 人が被害にあっていた。
• 多くの国や地域では、多数の犠牲者が紛争などの混乱のために記録されていない。そのため、実際の数字はより多いことが想定される。しかし、近年記録の精度は向上しているおり、その意味で犠牲者数の減少は大きな意味を持つ。
• 2014 年は、54 の国と 4 の地域で被害が確認された。このうち 37 ヵ国が締約国である。
• 犠牲者の多くは、一般市民である。
• 市民の犠牲者の中で 39%が子どもであった。
• すべての犠牲者の中で 12%が女性であった。
• 70%の被害が締約国で発生している。
• アフガニスタンで、被害が急激に増加した。2014 年の犠牲者は 1,296 人であり、2013 年の 1,050 人から大幅に増加している。この増加は、犠牲者自身が起爆するタイプのIED に由来するものが多い。
• 2014年は、メーカー品の対人地雷と IEDによる被害が全体の 49%を占めた。
• 犠牲者自身が起爆させる IED による被害の割合が 2012 年の 22%から 2013 年には 31%に増加している。

地雷の汚染面積とランドリリーズ
2015 年 10 月現在、57 の国と 4 の地域で対人地雷の存在が確認されている。このうち、33 か国が締約国で 24 か国が非締約国である。他の 5 ヵ国は、対人地雷の存在が疑われている国である。2014 年、少なくとも200km2 の面積で地雷が除去された。これは、2013 年の 185km2 から増加している。また、230,000 個の対人地雷と 11,500 の対車両地雷が処理された。(訳注:「除去された。」と述べているが、ランドリリーズにより「地雷なしと宣言された」土地も含まれると思われる。)
• 2014 年には、アフガニスタン、カンボジア、クロアチアで過去最大の面積が除去された。この 3 か国で全体の除去面積の 75%を占める
• 過去 5 年の間に、約 976km2 の面積が除去され、148 万個の対人地雷と82,000 個の対車両地雷が処理された。
2014 年には、ブルンジが地雷原の除去を終え、2015 年 9 月にはモザンビークが地雷除去完了の宣言を行った。
• 条約が発効した 1999 年以降現在までに 29 か国が地雷の除去を完了した。(訳注:本文 P.20 の表 参照)
• オマーンが第7条報告の中で対人地雷の存在を報告し、地雷汚染国のリストに加えられた。
• ウクライナが地雷汚染国のリストに加えられた。
• 地雷除去の義務がある 33 か国のうち、27 か国が少なくとも 1 回の除去期限の延長を認められた。しかし、計画通りに除去を進めているのは3か国のみである。 (訳注:本文 P21 の表参照。3 ヵ国はアルジェリア、チリ、コンゴ民主共和国)
• 4 か国(コンゴ民主共和国、エリトリア、イエメン、ジンバブエ)が除去期限の延長を第3 回再検討会議(2014 年 6 月)に申請し承認された。2015 年にはキプロス、エチオピア、モーリタニア、セネガルの 4 か国が延長を申請しており、第 14 回締約国会議(2015 年 11月)の承認が議論される予定。
• 100km2 以上の面積に地雷が残っていると考えられている国は、アフガニスタン、アンゴラ、アゼルバイジャン、ボスニア・ヘルツェゴビナ、カンボジア、チャド、クロアチア、イラク、タイ、トルコ、西サハラである。ランドリリース手法の拡大により、多くの国でより正確な被害面積が把握できるようになっている。

地雷対策への支援
支援国と被害国が地雷対策に拠出した金額は、2014年は 6 億 1,000 万ドルであった。これは、2013 年と比較して 3000 万ドルの減少である。また、2 年連続の減少となった。
国際的な支援は、4 億 1,700 万ドルであり、2013 年から 2,300 億ドルの減少となった。

• 42 の国と 3 つの地域が、合計 33 の国から支援を受け取った。
• 支援国のうち、上位 5 か国は、アメリカ、EU、日本、ノルウェー、オランダである。この 5 か国で 72%を占める。
• 9 年連続して国際的な支援が 4 億ドル以上を記録した。
• アフガニスタンに対する支援額が大幅に減少した。2013 年には6,800 万ドルだった額が 2013 年には 4900 万ドルに減少した。ただ、2 番目に支援受取額が多い国(ラオス:3,700 万ドル)より 30%多い。
• 受取額が多い上位 5 か国(アフガニスタン、ラオス、イラク、アンゴラ、カンボジア)が全体の 45%の国際的支援を受け取っている。
• 国際的な支援の分野別の内訳は、除去・回避教育(68%)、犠牲者支援(7%)、アドボカシー(5%)、キャパシティー・ビルディング(4%)、貯蔵地雷の処理(1%)となっている。それ以外の 16%については、分類されていない。
13の被害国が1億9,400万ドルを国内の地雷対策に拠出した。これは2013年と比較して 4%の減少である。さらに、PKO の一環で実施される地雷対策に 1 億 6,600 万ドルが 2014 年には拠出された。これは、2013 年と比較して 10%の増加である。

犠牲者支援
地雷犠牲者が多い締約国の中で、犠牲者支援について、カルタヘナ行動計画(2009-2014)、マプート行動計画(2014-2019)に従って大きな進展がみられた。しかし、依然として課題もある。

• 多くの国で犠牲者のニーズに対する理解が改善していることが調査を通して明らかになっている。
• 約 3 分の 2 の国で、犠牲者を支援し権利を守る国家的な取り組みや計画が実施されている。しかし、アフガニスタンやスーダンでは期限が過ぎた行動計画が更新されていない。また、計画が実行されていなかったり、ドラフトのまま手を付けられていない国も存在する。例えば、アルジェリア、ブルンジ、チャド、コンゴ民主共和国、南スーダン、イエメンなどである。
• 多くの国で、さまざまな調整メカニズムを通して犠牲者支援が他の障害者の権利や障害者支援の取り組みに統合されている。しかし、ボスニア・ヘルツェゴビナやコンゴ民主共和国、ウガンダなどでは調整メカニズムが機能していない。
• ほとんどすべての国で生存者は調整メカニズムに参加している。しかし、意思決定の役割を担うなどより役割は強化されるべきである。

保有地雷の処理
締約国はこれまで 4,900 万個の保有対人地雷を処理した。これには、2014 年に処理された 53 万個の対人地雷も含まれる。
• フィンランドは、100 万個の保有地雷の処理を完了した。
• 900 万個以上の対人地雷が 6 つの締約国によって処理される予定となっている。
• ベラルーシ、ギリシア、ウクライナが条約の履行義務違反を犯している。ベラルーシとギリシアは 2008 年に、ウクライナは 2010 年に処理の期限を迎えている。

移転と製造
過去10年で対人地雷の移転は、極めて低いレベルの非合法の移転のみとなった。しかし、スーダンやウクライナ、イエメンなどで対人地雷が使われており、なんらかの形の対人地雷の市場があるものと推測される。
• 6つの地雷生産国を含む 9つの非締約国が対人地雷の輸出にモラトリアム(訳注:輸出の一時停止)をかけている。これらの国は、中国、インド、イスラエル、カザフスタン、パキスタン、ロシア、シンガポール、韓国、アメリカである。
対人地雷条約の締結前は地雷生産国が 50 か国以上存在したが、現在は 11 か国のみとなっている。11 か国は、中国、キューバ、インド、イラン、ミャンマー、北朝鮮、パキスタン、ロシア、シンガポール、韓国、ベトナムである。
• 現在も地雷を生産している国は次の 4つである。インド、ミャンマー、パキスタン、韓国。(訳注:現在、地雷を生産していないが、生産する権利を保有する国は中国、キューバ、イラン、北朝鮮、ロシア、シンガポール、ベトナムの7ヵ国である。)
アフガニスタン、コロンビア、イラク、ミャンマー、パキスタン、シリア、チュニジアなどの非国家主体が IED を製造している。(訳注:この事は、オタワ条約、オスロ条約により、対人地雷、クラスター爆弾の生産、輸出入の停止が、締約国のみならず、非諦約国でも実施されていることに起因すると思われる。)